<正論と常識を伝えること>




<要旨>

不登校、ニート、引きこもり、職場不適応、発達障害や精神障害に伴う不適切な言動によるトラブルの頻発などには、主に判断力の問題があります。当事者にはそれがわからない。つまり自分が見えないこと、だから正論や常識を伝えても受け取りにくいのです。
常に適切な判断と行動が出来る人はいませんし、なにかしらの問題が起きながらも日常困らない程度まで修正努力して生活しています。しかし、判断力の偏りや歪の程度が強ければそれに応じて日常の生活に強く影響を与え不適応が起こり、その例が上記の状態です。  

 

<当事者にとって現実への思い>

なんでこうなのかわからない、よくないととらえていない、どうすればいいのかわからない、仕方がない、自分に落ち度はない、悪気はない、意識しないようにしている、楽しむことへの没頭、障害に責、運命、自虐的、他者への責任転嫁などの意識を持っていることが多いです。
 関わる方としては、問題行動を起こせば、注意を促したり、取るべき行動を示し、実行させようとしますし、それによる改善の期待をします。
たとえば、学校に行けていなければ、登校を促したり、引きこもっていれば、外に出るように不適切な言動があれば、適切な言動を教えたりとか、伝えていることは正論であり常識的なことなのですが、この手法だけでは、事態の多くは好転せず、むしろ硬直や悪化することも多々見られます。正しいと思われることを伝えているに関わらず、事態は好転しないことに矛盾しますが、それは好転しないわけがあるからです。

 

<正論や常識を伝えても好転しにくい理由>

・原因とその影響を当事者がつかんでいないからなのです。

・関わる方が正しい、常識的な適切な行動を取ることは、それが困難であるとの認識が充分でなく、それに向けて努力すべきが当たり前と捉えていることが多いのです。

・当事者自身の判断への問題意識が希薄であることです。


どうして希薄であるのか? 

それはコンピューターにたとえると情報処理をするソフトがあって通常、10個の分析項目より分析して処理するところを7個の分析項目と1つの正常に起動しにくい項目と2つの項目が作動しない場合で、このような分析自体が違うので、10個の分析項目が作動する人との判断処理状態に差が出ます。

例を挙げてみると

・原因と結果に注視しない。別の言い方をすれば結果の検証(反省)が不十分である。これも判断力の一部の欠陥や偏りで過去から学びにくい状態にあること。

・過去から学んだことを応用すること、未来予想、状況判断、感情理解、行動したことの影響などの一部の意識の喪失や希薄さがある。

・問題の成り立ちを説明をすると理解できるが、行動を起こすほどのモチベーションや切迫感をもてない。

・繊細で感受性が強いパーソナリティーによって不安が生じやすい心理状態に置かれやすくなっている。

・トラウマによる特定のことへの過剰な反応。

・共感性が弱い。

・冷静に考えると分かるが、いざ問題を起こしやすい状況下では感情に流され、学んだことを意識化できなくなる。またこの自覚に欠ける。

・自分の判断を疑っていない。悪意がない。自分の判断と行動、結果、影響がリンクせず、目的とその行動にのみ意識が向いている。

・悪意、故意でなければいいと思っている。またあっても自己要求が優先され、その後の影響を考慮していない


以上がその主な理由です。

このような判断力が欠陥、偏りがあるため、正論や常識を伝えても、変更されにくいようです。

 

<事態の改善に向けて>

状況変化により、強い切迫感や行動変更を余儀なくされる事態になると悪く作用するリスクはあるものの適切な行動がとりにくい仕組みが理解される糸口になることもあり、それにより事態を受け止めつつそれから判断したことや、行動が周囲に与えた影響、最終的に自分にとって適切であったか、その学びの深さにより、自分の判断を自分で監視するようになります。

他には、成長変化による自己洞察(自己に向き合おうとする意識の高まり)による判断力の改善です。

「支援方法」「自立について」「自分を知ること」「依存すること」を参照してみてください

 

<関わる方としての役割>

・当事者の問題の修正、改善、解決を第一義に考えず、原因の根幹には物事の捉え方の歪、それに当事者が気付かないことで問題が改善されにくい現実を知ること,つまり自分のことが見えていないことを知ることです。

・何でこうなるんだろう(疑問)○○をよくしたい(目標)○○すべきではなかった(反省)、そのために○○する(方法)ことに意識を向けさせるための問いかけを行うこと。

・~しなさいとか、指示はなるべく控えるべきです。分かれば指示しなくても当事者の意思で修正していくものです。

・自分の置かれている状況が分かる、その程度の意味は分かる、身にしみて分かるなど深みに差があるものでそれにより意識、行動変容にも差が出ます。

・当事者は自分のことをわかってもらえない。自分は悪くない、自分は否定されている。関わる方は当たり前のことができない、教えても素直にしない。ぜんぜんよくならない、どうしたらいいものか、このミスマッチ状態が続くことで起こる問題は深刻です。

・身にしみて分かれば解決されるのかは、今までの意識習慣が働くためにすぐにすべてが解決には至りませんが諦めなければやがて適切な思考意識が徐々に優勢となります。 


※これらの取り組みの過程で当事者に葛藤が生じることを関わる方は理解する必要があります。上手くいかないところを注意したり、正論を繰り返し言うことは、当事者に負荷を与えかねません。